2018年、海外での先行公開の時点で既に大きな反響を起こしていた「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」は、日本でTV放送されるとまたたく間に口コミで広まり、アニメ好きのファンを魅了した。
普遍的な物語、美しく繊細な作画、想像力をかきたてる劇伴音楽など、アニメを構成する要素一つ一つが丁寧且つ高い次元で制作され、アニメ好きのみならず普段アニメをあまり観ない人たちも巻き込む作品となった。
放送終了後の2019年、京都アニメーション放火事件という痛ましい事件が起こった。事件の影響から当初劇場版は中止または延期かと囁かれたが、作品は予定通り公開されることになった。
本作を予定通り制作し公開に繋げた京アニスタッフ皆さんの胆力には驚きを隠せない。また事件で犠牲になった遺族の皆さんにはこの場を借りて哀悼の意を表したい。
ケイ
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映画「ヴァイオレット・エヴァーガーデン外伝-永遠と自動手記人形」ネタバレ無しの感想・考察
本作は小説「ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝」の中の物語をベースにしています。物語の時間的な位置づけとしてはテレビアニメ13話の後の話でしょう。
外伝のあらすじ!貴族の教育係になったヴァイオレット
白椿が咲き乱れ、良家の娘のみが通学を許される名門女学園に通う大貴族ヨーク家の跡取り娘イザベラ・ヨークは、父親と交わしたある契約が原因で学園生活が苦痛でしかなかった。あるとき、彼女の専属教育係として元少女兵ヴァイオレット・エヴァーガーデンが学園に派遣される。彼女はC.H郵便社で、代筆を通して人の心に触れることができる自動手記人形といわれる代筆業に就いていた。(「ヴァイオレット・エヴァーガーデン外伝」あらすじより引用)
貴族の娘イザベラ・ヨークの教育係として派遣されるヴァイオレット。ドールとしてでは無く教育係というのが少し気になりますね。
ヴァイオレットはテレビアニメのラスト13話で「もう命令は必要無い」と言って自立した女性への道を進み始めました。
その流れを受けて外伝では自ら主体的に、誰かに言われてではなく、進んでドール意外の仕事も始めたということなのかもしれません。
声優も豪華!新キャラクターのイザベラ(寿 美菜子)とテイラー(悠木 碧)
物語のキーになってくるのは新登場のキャラクターイザベラ・ヨークとテイラー・バートレットでしょう。
イザベラの声優さんは寿 美菜子(ことぶきみなこ)さん。そしてテイラーの声優さんは悠木 碧(ゆうきあおい)さんです。
私が声優の寿さんを知ったのはアニメ「けいおん!」のむぎちゃん役です。今回のイザベラ役はそれと雰囲気の違うシリアスめなキャラクターです。
一方テイラーの声優さんの悠木 碧さんは「魔法少女まどか☆マギカ」の鹿目まどか役で有名になった声優さん。うーん豪華キャスト…!
映画の予告動画を見るに、二人は姉妹のようですが名前が全く違います。また二人の衣服を見るとテイラーのほうの身なりは乞食っぽく貧相です。
貧富の差がある二人は腹違いの子供なのでしょうか?あとはテイラーが自分のことを「僕」と呼んでいるのが気になりますね。
イザベラは本当は男であるという可能性は・・・。(ないか)イザベラと父親が交わしたという「契約」というのが物語のキーになってきそうです。
公式の予告動画も美しく、映画への期待感を高めてくれますので、ぜひ本編を見る前に御覧ください。
TVアニメ版との違い!外伝の監督は藤田春香さん
原作:暁佳奈
監督:藤田春香
監修:石立太一
シリーズ構成:吉田玲子
脚本:鈴木貴昭、浦畑達彦
キャラクターデザイン・総作画監督:高瀬亜貴子
世界観設定:鈴木貴昭
美術監督:渡邊美希子
3D美術:鵜ノ口穣二
色彩設計:米田侑加
小物設定:高橋博行
撮影監督:船本孝平
3D監督:山本倫
音響監督:鶴岡陽太
音楽:Evan Call
主題歌:茅原実里
今回の映画のスタッフさんは基本的にほぼ全て地上波アニメで関わったメンバーが集まっています。
細かい変更点を言うと地上波では石立太一(いしだてたいち)監督でしたが、劇場版-外伝では藤田春香(ふじたはるか)さんが監督になっています。
石立さんは京アニ叩き上げの監督で「響けユーフォニアム」や「涼宮ハルヒの憂鬱」など、数多くの京アニ作品に関わってきました。
藤田春香さんはTV放送版ではシリーズ演出という立場で参加されていました。演出とは監督の立てた方向性に向かって映像を作っていく仕事ですね。
演出とは出来上がった絵コンテ(紙芝居のようなアニメの骨格)をもとに実際の画面作りを行う仕事です。アニメーターなどさまざまなスタッフと打合せて出来あがった成果物をチェックし、修正するなら指示を出し、監督によって示された作品の全体方向を意識したうえで、映像を完成させます。
今回の映画外伝で藤田さんが監督になった理由もテレビ放送版で監督の支持や作品全体の方向性をしっかり理解しているからということなんでしょう。
第一報で「外伝」の公開期間は2週間限定の予定でしたが、予定を三週間に延長しました。さらに第一週、第二週、第三週と、それぞれ異なる来場者特典(小説)も用意されています。
素晴らしいアニメですので、ぜひ映画館に足を運んでみて下さい。この続きは映画視聴後に追記したいと思います。
映画「ヴァイオレット・エヴァーガーデン外伝-永遠と自動手記人形」あらすじとネタバレ感想・考察
「ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝-永遠と自動手記人形」は約90分の映画です。地上波アニメで言うと4話分の物語になります。
前半パートではヴァイオレットがヨーク家の令嬢イザベラの寄宿する女学校の寮を訪れ、そこで3ヶ月間の同棲生活をする様子が描かれます。
イザベラは当初こそヴァイオレットを拒絶しますが、ヴァイオレットの献身的な姿勢に次第に心を開いていきます。
後半パートではヴァイオレットがイザベラの元を離れてから4年後のライデンシャフトリヒの様子が描かれます。
いつもと変わらずCH新聞社で働くヴァイオレットの元に一人の少女「テイラー・バートレット」が訪れます。
前半パート1「イザベラとヴァイオレットの出会い」
本来はドール(自動手記人形)として働くヴァイオレットが、家庭教師を引き受けたのはCH郵便社として大貴族ヨーク家のお願いを断れなかったからのようです。
社長のホッジンズからの指示を受け、ヴァイオレットはイザベラの家庭教師(侍女)として女学校の寮で生活を始めます。
当初、ヴァイオレットの完璧な振る舞いに自信を喪失し心を閉ざすイザベラでしたが、ヴァイオレットの献身的な姿勢や自分と同じ心の傷を感じ、彼女を信頼していきます。
そしていつしか二人は「友達」となり、ヴァイオレットもまた一つ「愛している」の意味を学んでいきます。
前半パート2「イザベラ(エイミー)とテイラーの過去」
ここで少し過去の話になります。
実はイザベラの本当の名前はエイミーであり「イザベラ」とはヨーク家が彼女に与えた名前でした。
戦争中、エイミーは孤児だったテイラーを助け、妹のように育ててきました。
貧しさの中でも暖かく生きる二人でしたが、エイミーの出生を探り当てたヨーク家によって転機が訪れます。
それは「エイミーがヨーク家の人間として生きるなら、テイラーの生活は保証してやろう」というものでした。
しかしそれはエイミーとテイラーにとって、永遠の別れを意味していました。
前半パート3「ヴァイオレットとイザベラの舞踏会」
イザベラの在学する女学校では舞踏会があり、ヴァイオレットは男性パートをイザベラは女性パートを踊ることになります。
ヴァイオレットの優しさで心を開いたイザベラは、妹テイラーのためにもヨーク家の淑女となること(学校での生活を全うすること)が自分にできる精一杯のことだと悟り、ヴァイオレットからダンスの手ほどきを受けます。
舞踏会のために男装したヴァイオレットと、美しく着飾ったテイラーのダンスのなんと魅力的なことか。
容赦なく映し出される美しい映像とセンチメンタルな音楽が、この映画のハイライトであると言っても間違いではないでしょう。
前半パート4「イザベラからテイラーへの手紙」
すべての任務を終えたヴァイオレットがCH郵便社へ帰還する日の夜、イザベラは妹テイラーへ手紙を書きたいと申し出ます。
エイミーとしての想いを乗せたイザベラの手紙は、ベネディクトの手で孤児院にいるテイラーの元に届けられます。
手紙には「辛い時はエイミーという魔法の名前を呼んで」と記してあり、この手紙がそれから長く、テイラーの心の支えとなります。
後半パート1「4年後CH郵便社にやってきたテイラー」
ここで一気に4年の歳月が経過します。
ヴァイオレットがイザベラの元を離れてから4年が経ったある日、CH郵便社にテイラー・バートレットがやってきます。
文字の読めないテイラーですが、4年前ヴァイオレットが代筆し、ベネディクトが配達した手紙を頼りに、ライデンシャフトリヒにやってきたのです。
4年前にベネディクトが届けてくれた手紙にずっと支えられてきたテイラーは、自らも手紙を配達する仕事がしたいと申し出ます。
後半パート2「テイラーに感化され変わるベネディクト」
CH郵便社で配達人として働き続けていたベネディクトは「配達人の仕事はつまらない」とぼやきます。
うだつの上がらない仕事に飽き飽きしていたベネディクトですが、テイラーと関わることで少しづつ仕事へのやりがいを思い出していく姿は心温まる演出です。
キラキラした瞳で「郵便配達人が運ぶのは、幸せだから!」と言うテイラーには見ている人も思わず心を動かされます。
後半パート3「テイラーからエイミー(イザベラ)への手紙」
ヴァイオレットに文字を教わり、郵便配達員として日々成長していくテイラー。テイラーは姉エイミー(イザベラ)に手紙を書くことを決意します。
消息不明だったイザベラを見つけ出したベネディクトは、テイラーの手紙を渡しに彼女のもとを訪れます。木陰では姉の姿を一目見ようとテイラーがいます。
イザベラの感動は手紙を開く「かさり」という印象的な効果音と共に観客に伝えられ、姉を思いやるテイラーの強い心は差し込む木漏れ日の光で美しく表現されます。
2020年に公開を控えた「劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン」への余韻を残しつつ、外伝もしっかり多くの人々の記憶に残る映画になったと思います。