2019年7月18日、小説「天気の子」が発売されました。映画の公開は7月19日なので、ちょうど公開の前日に小説版が発売されたことになります。
管理人は映画を観終わったあとに小説版を読みましたが「これは…映画を観た人こそ楽しめる内容だ」と強く感じたのでこの記事でそれを伝えたいと思います。
小説「天気の子」は映画が好きだった人は絶対に読むべきです。小説の何がそんなに良いのか?を小説と映画の違いを通して解説していきます。
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小説も映画も基本的には同じストーリー
小説「天気の子」も映画(アニメ)「天気の子」も基本的には同じストーリーです。
では何が違うのかというと小説には映画(アニメ)には無い描写が多数追加されています。
小説だけにある描写たちは時間の都合上削られたというより、両者の表現方法の違いが根本にあるのだと思います。
例えば映画には絵があって、各キャラクターの表情がある。キャラクターには声があり、声にも表情があります。
さらにそこに効果音や劇伴音楽といった情報も追加され「たぶんこの人は悲しんでいるんだ」という察しがつきます。
一方で小説というのは文字しかありません。映像と音と台詞で立体的に表現される映画と違って小説は描写が増えるのは必然なのです。
小説「天気の子」と映画の違い
小説のほうが描写が多いというのは例えば具体的には物語の終盤で須賀が警察の邪魔をして帆高を屋上へ行かせるシーン。
それまで帆高を諭していたはずの須賀は急に「てめえらが、帆高に触んな!」と声を荒げて警察の邪魔をします。
映画では作画のテンポや役者さんの声の演技、帆高が警察に捕まるときの音、直後の劇伴曲などでなんとなく須賀が帆高と過去の自分を重ねて感情が爆発しているのだろうというシーンになっています。(少なくとも私はそう理解)
しかしこのシーンを小説でも同じようにグッとくるようなシーンにしようと思えば、映画より多めに須賀の人生を描く必要が出てくるわけです。
このようにして小説は同じ台詞であっても、映像と同じような重みを持たせるために様々な比喩が使われたり追加の描写が増えてきます。
小説で語られる須賀の心理描写が泣ける
では具体的に小説ではどんな風に須賀の描写が増えているのかというと、例えば須賀の元に帆高を探している刑事の安田が来るシーン。
このシーンでは須賀がどういうわけか涙を流していたというところが描かれます。映画では特に説明はありませんが小説では次のような記述があります。
「そこまでして会いたい子がいるってのは 、私なんかにゃ 、なんだか羨ましい気もしますな 」
あの柱に刻まれているのは 、三歳までここで育った萌花の身長だ 。明日花の文字もある 。文字も記憶も 、まるで数日前のような鮮やかさでそこにある 。
「そんな話 、俺にされても … … 」
俺は憮然と刑事に言う 。そこまでして会いたい人 。帆高にはいるのか 。俺にはどうか 。全部を放り投げてまで会いたい人 。世の中全部からお前は間違えていると嗤われたとしても 、会いたい誰か 。
「──須賀さん 、あなた 」
刑事がぼそりと言う 。俺にも 、かつてはいたのだ 。明日花 。もしも 、もう一度君に会えるのだとしたら 、俺はどうする ?俺もきっと──。
新海誠『天気の子』(角川書店)第九章「快晴」より引用
この描写によって須賀が「世の中全部からお前は間違えていると言われても会いたい人(=妻)」を思い出したのだと分かります。
この描写があることによって、クライマックスで須賀がリーゼント刑事をふっ飛ばしてでも帆高を助けるシーンがよりグッとくるものになります。
映画では語られなかった須賀の兄(夏美の父)の話
映画で殆ど語られなかった須賀の物語として、須賀の実家は地方で代々議員をやっている名家であるという話が夏美から語られます。
また須賀への親の期待は高かっただけでなく、須賀には東大にストレートで入り海外留学をするような超優秀な財務官僚の兄がいます。
そしてこの兄が夏美の父親です。要するに夏美も須賀も須賀の兄へ何らかのコンプレックスのある似た者同士であるという裏設定があるんですね。
映画を観るときもこの点を踏まえて須賀や夏美を観察してみると、また違った印象が持てると思います。
須賀が帆高に優しい理由は自分も家出少年だったから
映画では須賀が帆高に優しいのは似た者同士だから、という割とサラッとした説明があります。
しかし小説では、須賀が帆高に優しくしてくれた(少なくとも住む場所を与えた)理由はかなり明確に記述されています。
「圭ちゃんは家出先の東京で 、明日花さんと出会ったの 。後に奥さんになる人 。両家の喧嘩になるような大恋愛の末に結ばれて 、二人で編集プロダクションを始めて 、萌花ちゃんも生まれて 。あの時は私も嬉しかったな 」
新海誠『天気の子』(角川書店)第七章「発覚」より引用
要するに須賀も実家が嫌いで東京に出てきたということで、これは似た者同士というか状況としては殆ど一緒です。
須賀の妻「明日花」はなぜ亡くなったのか
須賀の妻「明日花」が亡くなっていることは映画でも語られていましたが、死因については不明でした。
で、小説ではどうかと言うと、残念ながら小説でも須賀の奥さんが亡くなった理由についてはっきりとした記述はありません。
わずかに映画には無かった(と思うたぶん)台詞でヒントになりそうなのは次の夏美の台詞です。
「奥さんはね 、何年か前に事故で亡くなっちゃったんだけど──」
あの頃の話はちょっと複雑すぎる 。ちょっと重すぎる 。今でもちょっと辛すぎる 。ハンドルを切るように私は笑う。
新海誠『天気の子』(角川書店)第七章「発覚」より引用
夏美の台詞から考察できるのは、須賀の妻である明日花は何らかの事故で亡くなり、その事故は思い出すのも辛いものということだけ。
しかし須賀の「会いたいけどもう会えない人がいる」という切なる願いは、帆高が陽菜に会いたいという想いを汲み取るには十分な背景ですよね。
ケイ
映画では語られなかった帆高の心
小説のエピローグで主人公の帆高が高校を卒業し、再び東京に向かう場面では、帆高がどんな想いで残りの二年間を過ごしてきたのかしっかりと描かれています。
それは奇妙にしんとした年月だった 。まるで海の底を歩いているように 、地上から遠く隔たれているような気分のまま僕は日々を送った 。誰かの語る言葉は僕にはうまく届かなかったし 、僕の言葉も 、人々にはうまく届かないようだった 。今までなにも考えずに出来ていたことが 、自然には出来なくなってしまっていた 。無意識に眠ることも 、当たり前に食事をすることも 、ただ歩くことさえも 、僕にはなんだかうまく出来なかった 。
新海誠『天気の子』(角川書店)終章「大丈夫」より引用
小説ではもっと長く帆高の語りが続き、帆高が陽菜と会えない日々どんな風に生きてきたのかが分かります。映画ではこのあたりはさらっと描かれていたように思います。
しかし水没した東京を妙に落ち着いた目で見る帆高の表情などの裏には、こういう設定があるんだと思うとより情景深く映像を楽しめると思います。
映画では語られなかった夏美の視点
天気の子において(特に小説において)夏美は第2の主人公と言っても過言ではありません。
なぜなら小説版の天気の子では帆高の視点がメインですが、次に多いのが夏美だからです。
夏美から帆高を見た視点、夏美から須賀を見た視点、夏美から陽菜を見た視点など、夏美の視点は小説に何度も登場します。
これには明確に理由があります。それはクライマックスで夏美が帆高を「帆高っ、走れーっ!」と送り出すシーンのためです。
「帆高、走れーっ!」
彼はもうちらりとも私を見ない。どんどん遠ざかっていく。私の口元は笑っている。パトカーのサイレンがすぐそこまで迫っている。
ーー私はここまでだよ、少年。
私は胸の中で、もう一度そう言う。
私の少女時代は、私のアドレセンスは、私のモラトリアムはここまでだ。
少年、私はいっちょ先に大人になっておくからね。
新海誠『天気の子』(角川書店)第九章「快晴」より引用
このクライマックスで帆高の背中を押し出す夏美の言葉は、ある意味では夏美自身に向けられているとも言えます。
夏美が将来に悩んでいること、モラトリアムを続けていることが分かるように、小説では序盤から夏美の視点が入っています。
そしてこのような事前の手続きがあることによって、終盤に「走れー!」と帆高の背中を押す夏美に説得力があるわけです。
雲の上の世界とは何だったのか
天気の子の中で登場する「雲の上の世界」とは一体なんだったのでしょうか?
映画の中ではなんとなく語られていましたが、小説には次のような明確な記述があります。
陽菜も僕に手を伸ばす 。この場所から出なきゃ 、と僕は思う 。雲の上のこの草原は 、彼岸だ 。僕らがいてはいけない世界だ 。ここは死者の世界だ 。
新海誠『天気の子』(角川書店)第十一章「青空よりも」より引用
仏教ではご先祖さまのいる世界=極楽(ごくらく)のことを彼岸と言い、私たちが生きている世界を此岸(しがん)と言います。
雲の上の世界とは、タキくんと一緒に登場した際に冨美おばあちゃんが言っていた「彼岸=死者の世界」だったのです。
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作品の理解がより深まると思いますので、スペシャル動画に興味のある人はぜひ早めに小説を購入してみてください。
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